イラン戦争の本質ーイラン生まれのイスラエル人に分析を聞いた

イスラエルとアメリカが2026年2月28日にイランに対して攻撃を仕掛けてから1ヶ月が経とうとしているが、「戦争」の出口は全く見えない。イスラエル・アメリカが当初訴えた「体制転換」の兆しは見えるどころか、両首脳は徐々にトーンダウンしている。そもそも「体制転換」は可能なのか。イスラエルとイランという敵対する両国を熟知するイスラエル人研究者に聞いた。
曽我太一 2026.03.28
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イスラエルとイランの数奇な関係

1979年、イランでイスラム革命が起きると、イスラエルとイランは中東最大の敵対関係となった。しかし、そのイランには今もユダヤ系住民が暮らし、イスラエルには革命を機に安寧を求めて移住したイラン系ユダヤ人のイスラエル国民も少なくない。

ユダヤとペルシャの関係を紐解くと紀元前6世紀にまで遡る。アケメネス朝ペルシャを築いたキュロス2世は新バビロニアを征服した後、バビロン捕囚下にあったユダヤ人の帰還を許可し、エルサレムでの第二神殿再建を後押ししたとされる。このため、キュロスはユダヤ史において解放者として肯定的に記憶されている。

現在イスラエル国内には約20万人程度のイラン系イスラエル人が暮らしているとされ、ペルシャ語がわかる筆者の知人は、街中でもよくペルシャ語を聞くと話していた。社会の中枢で活躍する人もいて、例えば、イラン生まれで革命前にイスラエルに移住したシャウル・モファズ氏はイスラエル軍の第16代参謀総長を務めた。

イスラエル軍参謀総長 シャウル・モファズ氏(撮影:OHAYON AVI/GPO)

イスラエル軍参謀総長 シャウル・モファズ氏(撮影:OHAYON AVI/GPO)

イスラム革命を機にイランを後にしてイスラエルに移住したイラン系イスラエル人は、このイラン戦争をどうみているのか。

イラン社会を熟知するテルアビブ大学のダビド・メナシュリ教授に話を聞いた。イラン系イスラエル人のメナシュリ氏はイラン革命の直前2年をイランで過ごした。今も世界中のイラン・コミュニティと深いつながりを持ち、取材を始めようとすると突然電話があり、流暢なペルシャ語で会話を始めた。「ロサンゼルスのイラン人からの電話だ。いっぱい電話が来るんだ」とちゃめっ気たっぷりに説明した。そして、インタビューは本題に入った。インタビューは2026年3月22日に実施した。

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軍事作戦だけで体制転換は不可能

ーーイスラエルはハメネイ師の殺害や多数の軍事目標への攻撃を実行しているが、地上軍を投入する構えは見せていない。イスラエルにとって今回の軍事行動の現実的な目標は何か。

イランの核開発計画に強くとりつかれている。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、この問題を自らの旗印として掲げてきた。これは彼にとって最重要のテーマであり、イランは実存的脅威である、すなわちイランが核兵器を保有すれば、その翌日にもイスラエルに対して使用する可能性があるという認識を、国民に信じさせてきた。

今回の戦争を見ると、イラン国民はこの戦争を望んでいない。また、アメリカでも大多数の人々は戦争に反対している。大多数が戦争を望んでいる国は、事実上イスラエルだけである。もちろん、この点については異論もあり得るが、少なくとも私はそう見ている。

テルアビブ大学 ダビド・メナシュリ教授

テルアビブ大学 ダビド・メナシュリ教授

私はこの戦争が始まったこと自体に満足していなかった。その理由は、イスラエルやアメリカの政策の中に、出口戦略に関する明確な思考が見られなかったからである。戦争を行うのであれば、何を達成するのか、どのような状況になれば「勝利」と言えるのかを定義しなければならない。

トランプ大統領が何を本当に望んでいるのかは非常に判断しにくい。おそらく短期間で終わり、かつ自らが「勝利した」と言える成果を伴う戦争を望んでいる。しかし、ある時点でトランプ大統領がこの戦争に飽き、「我々は勝った」と宣言して、ネタニヤフに戦争継続を委ねる可能性はある。これは起こり得ることであり、イスラエルにとっては必ずしも望ましい展開ではない。

イスラエルにとって、アメリカと並んで戦っていること自体には意味がある。また、イスラエル政府内の一部にとっては、戦争が継続することが政治的に有利である可能性もある。しかし、最も重要な問いは、この戦争によって何を達成するのかという点である。

体制転換を望んでいるのかという問いに対しては、私はその可能性は高いと考える。しかし、体制を倒した後にどのような体制を構築するのかという戦略は見えていない。ハメネイ師の後に誰が来るのか、どのような政権を想定しているのか、明確な候補は存在しない。現時点では、代替となる体制は存在していないと考える。

さらに、革命防衛隊が依然として強い力を保持しており、内部に大きな亀裂も見られない以上、この段階で体制が崩壊するとは考えにくい。多くの人々が体制に不満を持っていることは事実であるが、それだけで体制が崩壊するわけではない。

ーーハメネイ師の後継として息子のモジタバ師が選出された。父親よりも強硬であると見られているが、イスラエルにとっても長期的にはリスクとなり得るのではないか。

まず、政府側ではなく、反体制側について考える必要がある。反体制勢力が成功するためには、代替となる理念、すなわち一貫したイデオロギーが必要である。また、組織としてまとまっている必要があり、指導者も必要である。しかし、現在のイランには、そのような大規模な反体制運動は存在していない。

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